リーダーシップをとれる人、雇用を生み出せる人
「三陸鉄道と沿線地域の在り方」記事で書いた草野さんは元々大手広告代理店プロデューサーをやっておられる方です。
現在は岩手県中核観光コーディネーター、ソウルオブ東北岩手プロジェクトプロデューサー、西和賀町地域復興アドバイザー会議委員、イオン盛岡南SC「結いの市」監修兼管理者、岩手県観光協会評議員など、アイデアや新しい発想に富んで岩手県全域で幅広い活動をしてらっしゃるためとてもここでは紹介しきれません。
そんな草野さんいわく「現場、現実、現状、この3つを理解したうえで企画力と決断力のある人が活力ある活動には必要」だそうです。
私たちがお世話になっている久慈観光協議会観光コーディネーターの貫牛さんもおそらく上に挙げた条件を満たす企画力リーダー体質の人であり、色々なアイデアを提案して既存の観光コーディネーターとしての仕事以外にも周辺の店の商品のプロデュースや道の駅でのイベント企画などを行っていらっしゃり目が回るような忙しさで働いていらっしゃるように見えました。
震災後に復活した食堂の新メニュー開発に携わる貫牛さん。(オレンジ色のジャンパーの方です)この日は試食会で私たちも参加させて頂きました。)
そういった企画力のあるリーダーは自分の企画によって多くの人間を動かし、ひいては雇用を生み出し社会を変えていく力をもっています。そんな人材はただ漫然と待っていてもなかなか出てこないためそのポテンシャルのある人を育てることも草野さんの仕事だそうです。
確かに決まった仕事のなかで真面目に仕事をこなす人というのは大勢いますし、ただでさえ昨今の科学技術の進歩によって決められた作業を行うことはたやすいこととなっています。
しかし「今までにない発想で企画を打ち立てて実行する」ということは並大抵のことではありません。
東京、大阪などに大企業が集中し、平均収入が高いことからもやはり地方と都市部には明らかな差があります。
それは今何度も挙げている「企画力のあるリーダー」が都市部に流れてゆくためじゃないかと私は考えます。
地方団体が「企画力のあるリーダー」育成に力を入れ、そういった人材が増えれば斬新な考えが多く生まれ、三陸の活力アップのみならず都市部と地方の経済格差や、ひいては都市部集中型の経済を地方に分散することも可能なのではと思います。
久慈班の活動概要と、久慈市における観光
私は17日に帰阪するため、活動も残りわずかとなった今、このことを書くのは遅すぎるとも思うのですが、そもそも私(私たち)が久慈にどういった目的をもってどのような活動を毎日送っているのかの概要を報告しようと思います。
私たちふるさと調査隊久慈班は久慈広域観光協議会さんにお世話になり久慈周辺で活動をしています。
東日本大震災を受けての久慈市の被害状況は最も大きな割合を占めるのが半壊で約4割を占めます。次いで一部損壊が3割弱を占めます。被害状況は地区によって異なりますが、隣に位置する野田村や有名なのに比べれば被害は軽く2012年3月現在、沿岸部以外での視覚的に悲惨な被害はあまり見受けられないように感じます。
上記のような被害状況に加えて、政府の方針が出る前にいち早く行動を起こした久慈市は県内で最も早く瓦礫の撤去が済んだそうで、遠野組のようなボランティア活動を通しての被災地学習、交流はほとんどできません。
そのため私は、久慈市において「外から引っ越して来た市民」のような形で市民の人々がよく利用するスーパーへ行ったり、外部から来た人が訪れる観光地を巡ったりする中である意味自然な形で観光に携わる方や一般の市民の方との交流を図っています。
そういった中で外部の人間だからこそ新鮮に感じるものを記録に残して報告させて頂くことにしました。
そういうわけで観光に関する資源について調査しているのですが、そもそも久慈市における観光とはどういった存在なのかを考えずに今に至っており、改めて考えてみました。
今回の東日本大震災を受けて作られた久慈市の復興計画の基盤は「新たな視点による、新たなまちづくり」であり、その計画を先導する5つのプロジェクトが打ち立てられました。それは下記のようになっています。
1.「生活を再建する」
2.「水産業を復興する」
3.「交流人口を拡大する」
4.「災害に強いまちづくりを進める」
5.「再生可能エネルギー等に取り組む」
プロジェクト3の「交流人口を拡大する」は外部から来た人と現地の人が交流をもつ事であり、具体的には「生産者と消費者との交流を進めることによって、本市の持つ海・山・里の良さを他の地域に積極的に発信し、本市がその交流拠点のモデル地域としての役割を担える町を目指します。」とのことで、観光業も含まれます。
なかでも「生産者と消費者の交流推進」項目では下のような事業が組まれており、私が注目したいのは農山漁村体験型交流事業についてです。
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事業名 |
事業主体 |
事業概要 |
事業 期間 |
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特産品PR事業 |
市・体験学習協会 |
都市部等の中高生教育 旅行等の受入れ |
全期間 |
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移住・定住促進事業 |
市 |
市の情報発信・PRを行い、生活体験や交流機会を 提供することにより 移住・定住を促進 |
全期間 |
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農山漁村体験型 交流事業 |
市・体験学習協会 |
海の資源等を活用した 新しいプログラムの整備 |
全期間 |
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紹介宣伝事業 |
市・体験学習協会・観光物産協会 |
首都圏における特産品の 販売やイベントの開催、 自然体験キャンプ等のPR |
全期間 |
(平成23年7月久慈市復興計画より)
私はかねてから「よい観光地であってもそれぞれが離れていて、車がなければ行けないというのは気持ちがくじかれるだろう」という思いがありそのことを、市役所の商工観光課の方にお話伺いました。
するとやはり観光課の方もそれは感じているらしく考案する観光は一日で回るのではなく時間をかけて回る、つまり時間に余裕のある団塊の世代に向けたツアーになるそうです。
しかし先ほどの復興計画に挙げられていた「特産品事業PR」や「農山漁村体験型交流事業」は事業概要にもある通り、中高生の学びの場としての活用も新たに考えてらっしゃいます。
上記のものはやはりバスを使ってのツアー旅行となっていますが、商工観光課の方いわく、2012年4月から土日限定で周回バスを走らせるそうです。
バス代はおおむね500~1000円だそうで、まだ詳しいことはわかりませんが、これがあれば個人で来た観光客の金銭的負担、精神的負担ともに軽くなるのではと思います。
ポストカード
私たちがお世話になっている久慈観光協議会でキャラクターデザインなどを手掛けてらっしゃる佐藤さんが、私たちの似顔絵と北いわてをコラボレーションさせたポストカードを描いてくださいました!!
白井くんは秋田県のなまはげと同じように「きかねぇワラスは連れて帰るぞ」と家々に怒鳴りながらやってくる「なもみ」、森脇さんは種市沿岸名産のホヤ、丸井くんは三陸を走るローカル線三陸鉄道、私長田は日本最大の琥珀産出地である久慈は琥珀王国であるということでそれぞれストーリー性をもたせて描いてくれました!
裏面にはそれぞれのプロフィールも書いてくださっています!
ポストカード表
ポストカード裏
似ているのに実物よりかわいくデフォルメしてあるのがすごいですよね(^―^)!!
こちらは佐藤さんが手がけたステッカーです。
この他にも数多くのイラストグッズのデザインを手掛けていらっしゃり、久慈観光協議会では「道の駅シールラリー」という決められた道の駅を回ってすべてのシールを集めると似顔絵を描いてもらえるイベントを3/25まで行っているのですがその似顔絵も佐藤さんが描いていらっしゃいます。
こういう風にイラストやデザインのセンスというのは磨こうとして磨けるものではないし、画家やイラストレーターといった職業以外でも芸は身を助けるとはこういうことを言うのだなあと感じます。
佐藤さんありがとうございます!!
街の電気屋さんの在り方
街を探索しながらお店を巡ろうということで野田村へ行きました。
ぶらぶら歩いていると「電化製品 肉」という表示のある北末電化製品店を見つけました。肉と電化製品を一緒に売っているなんて珍しいということでお邪魔してみると電化製品はあまりなく、肉も豚肉が中心でそれほど多種を揃えている様子ではありませんでした。
話を伺うと、肉と電化製品を一緒に売っている状況は先代からのことなのでわからないそうですが、一つの業種ではなかなか稼げないためいろんな方向に手を伸ばしているうちに最終的に残ったのが肉と電化製品だったのだろうとのことでした。
野田村と久慈市は隣接しているのですが、久慈には「ヤマダ電機」や「K’s電機」といった量販店が並んでいます。そういったチェーン店と比較してどのような経営をしてどのような役割を担っているのだろうかと疑問に思った私は、野田村に他に電化製品を売る店があるかを北末さんに尋ねました。
すると、中野電機さんがあると教えて下さりそちらへもお邪魔しました。
そちらは北末電機さんとは異なり電化製品を専門とした店なのですが、店構えも小ぶりで同じく店内に電化製品はほとんどありません。
店に商品がない状態でいったいどうやって生業を行っているのかと思っていたのですが、電化製品というものは一般に幅をとり、またどんどん新しい種類が増えて型も変わってゆくためお客さんから注文されてから発注するそうです。
これなら売れなくていつまでも店に置いておかなくてはならないということにもなりませんし、カタログだけ置いておけばいいので店のスペースもとりません。商品は注文すれば翌日には届くそうです。
現物を見て判断できないためネット通販に近い仕組みになりますが、客層が店の近くに住む年配の方がほとんどであるため疑問に思ったこと等を言えばその人に合った柔軟な対応をしている様子でそういったことが支持されているのでしょう。
お話を伺っている間にも仮設住宅から「テレビをぶつけてしまって動かないんだけど。」と電話がかかってきたのですが、仮設住宅のテレビは行政が無料で配置したものなので「俺に頼んでもいいけど役所に頼んだらタダで直してくれるんじゃないか。」と儲け度外視のアドバイスをするなど、人と人とのつながりが大切にされているのだと感じました。
このような街にある小さなお店が大型量販店と同じ土俵に立てば品揃え、価格どちらにおいても対抗することは並大抵のことではありません。
そうなれば、無理に同じ土俵で勝負をするのではなく大型店にはできない違う角度から顧客を集める方が効率のよいやり方と言えるでしょう。
思えば私の地元にも小さな電気店があったのですが、気づけば空き店舗になっていましたし、地域住民とお店とのつながりが都市部よりも強い地方の方がこういった商店は営業しやすいのかもしれません。
三陸鉄道と沿線地域の在り方
先日の「久慈における公共交通機関」にも少し書きましたが三陸鉄道は最大のクライアントである学生が少子化によって減少していることもありここ17年間は赤字が続いている状態です。
しかしながら、そもそも三陸鉄道誕生の起源は明治29年の三陸地震津波の復興の際地域住民からの復興案として「三陸を縦貫する鉄道整備が必要」との声が出たことにあります。
地形が複雑で沿線にこれといった大都市も抱えない三陸地域の鉄道整備は大幅に遅れ、昭和47年にようやく国鉄宮古線(宮古~田老間)が開通したものの全線の開通を待たないまま昭和56年には廃線してしまいました。
国でできないのなら地域の力でと、その後も様々な紆余曲折を経つつも「三陸鉄道」としてようやく完成したのが昭和59年なのです。
このように地域と共に歩んできた鉄道である三陸鉄道は現在も三陸の生活維持基盤鉄道であるため廃線することはできず第三セクターとして運営されています。また、それに加えて今回の震災を受けての復旧には100億円以上を要すそうですがそれも昨年11月に成立した第三次補正予算で国が負担することが決定しました。
そういった国からの援助に甘えて何もせずにいるのは申し訳がないということで、三陸鉄道では草野悟さんの提案のもと一人ひとりが「どのような会社にしたいか。」ということを考えてレポートにして提出する制度を設けたり、鉄道を利用する人におすすめの、沿線にある施設や食事をする場所を探して話題発信を行っています。(駅-1グルメ)
上に挙げたような企画を考案された草野さんは当然社員の方だとお思いでしょう。
しかし草野悟さんはあくまで「三陸鉄道を勝手に応援する会」会長、つまり三陸鉄道の社員など直接の関係者ではない方なのです。
ですが草野さんは上に記した活動以外にも「被災地フロントライン研修」という外部からやってきた方の被災地視察を円滑に行うための企画し、ガイドを三陸鉄道の社員が行うプランも考案されるなど様々な面で三陸鉄道、いえ三陸沿岸のアドバイザーとして活躍なさっています。
恥ずかしながら私はお会いして詳しくお話を聞くまで「三陸鉄道を勝手に応援する会」と名前のイメージで鉄道マニアのファンクラブのようなものなのかな、と思っていましたがそれは大きな誤解でした。
このように「勝手に応援する会」などと名乗っていますが実際に三陸鉄道の経営方針等も決める重要な人物でいらっしゃるのです。
なぜ体系的な組織にしないのかと思っていたのですが「こうして勝手に応援しているという形の方が影でサポートして手柄は三鉄のものとして扱えるし、俺以外にも約170人の会員で自分たちのお金を出し合うことが大事なんだ。」とおっしゃいました。
「駅-1グルメ」の協力者欄も地元の団体ばかりです。
駅-1グルメ協力者欄
この企画も含め、わりと単独スポンサーになりたがる大手企業は多いそうです。ですがなぜそれを受けないかというと地元色が薄れるからです。
一つの企業にスポンサーについてもらえば楽に資金繰りもできるでしょうに、そうはせずやはり「三陸全体に活気を与えること」を目標に広い視野で見てらっしゃるのだなあと感動しました。
草野さんがどういった方かということについては長くなりそうですし、関連して書きたいこともあるので別記事で書きます










